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千葉地方裁判所 昭和51年(わ)663号 判決

本店所在地

千葉県市川市宮久保三丁目三六番一〇号

株式会社京浜商事

(右代表者岡野谷繁光)

本籍

同市宮久保三丁目四七〇番地

住居

同市宮久保六丁目二番三号

会社重役

岡野谷繁光

昭和五年二月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官上田廣一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社京浜商事を罰金二、五〇〇万円に、被告人岡野谷繁光を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人岡野谷繁光に対し、この裁判の確定した日から二年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人株式会社京浜商事及び被告人岡野谷繁光の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社京浜商事は千葉県市川市宮久保三丁目三六番一〇号に本店を置き、不動産の売買、仲介等の事業を営む資本金一〇〇万円の株式会社、被告人岡野谷繁光は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人岡野谷は被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、公表経理上架空の支払手数料を計上する不正な方法により所得を秘匿し、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三四三、九〇二、〇六六円(別紙(一)修正損益計算書及び別紙(二)脱税額計算書参照)であったのにかかわらず、昭和四九年二月二八日、同市北方一丁目一一番一〇号所在の所轄市川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五七、七〇二、〇六六円で、これに対する法人税額が二四、一一一、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度の正規の法人税額一四〇、二〇四、四〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一一六、〇九三、〇〇〇円を逋脱したものである。

(証拠の標目)

一  証人田中卓視、同早津健一、同笠井唯夫、同久保田嘉一、同堤幸雄、同貝塚正二、同田島輝雄、同中村守利及び同石崎忠昭(第一〇、第一一、第一九回公判)の当公判廷における各供述

一  田中利次、岡野谷秀男、中島茂、田中卓視(第四項を除く)、笠井唯夫、久保田嘉一、堤幸雄、田島輝雄(第二項の一行目ないし二〇行目を除く)及び山田広之の検察官に対する各供述調書

一  中島茂、中村勝一及び中村守利(昭和五〇年三月二二日付問五の各部分を除く)の大蔵事務官に対する質問てん末調書

一  田中卓視、貝塚正二、矢島桂子(二通)及び辻唯雄作成の各上申書

一  大蔵事務官作成の土地売買契約及び土地代金支払状況についての調査書、登記事項等調査書、「登記事項等調査書」の一部訂正についての報告書、「土地の譲渡等がある場合の特別税率にかかる税額調査書」の修正調査書及びその他所得の損益計算書

一  橘正作成の土地売買契約書写の提出についての報告書

一  株式会社京浜商事を審査請求人とする法人税の審査請求書(写)

一  同社提出の修正確定申告書(謄本)

一  検察事務官作成の脱税額の算定に関する報告書

一  押収してある法人税確定申告書一綴(昭和五一年 三〇七号の一)、契約書一通(同押号の二)、手帳一冊(同押号の三)、債務弁済契約公正証書(同押号の四)及び確認書等一袋(同押号の一八)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末調書六通

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、船橋市古作町の土地(以下「本件土地」という。)に係る売買代金一、三四三、二七二、六八〇円について、被告人株式会社京浜商事(以下被告会社という。)の買収業務は当初より各地主との交渉から引渡しまでの責任を負うことになっていたものであるところ、右土地には地主の造成協力分が含まれたため予定の全土地を買収して、造成工事を行ってからその一部について地主と換地を行うまでは取引を完了しないことになったが、各地主らは今なお耕作していて土地の造成もなされておらず、したがってまた、被告会社と売却先である株式会社開拓社(以下開拓社という。)間で昭和四八年度中に売上金額が確定したということもなく、いまだ清算関係は未了であるから、被告会社が前記金額を売上として計上し、昭和四八年度中の収益として認識し確定することは誤りであって、その申告は錯誤により行われたものであると主張する。

しかしながら、証拠によると、被告会社は開拓社との契約にもとづいて土地の買収を始めたところ、昭和四八年になって開拓社からの送金が遅延しだしたため、古作町の土地にマンションを建てる予定であり、実質的な資金源とみられる岡崎工業がその調整にのり出してきたこと、その際、昭和四八年一〇月ころ、すでに開拓社より概算払されていた金額と地主に対する未払金の合計が一、三四三、二七二、六八〇円であることが確認されたこと、一方被告会社の計理上の処理は、当初開拓社からの受入金を仮受金とし、その支払金を仮払金として処理していたところ、その後、仕入売上の処理を行ない、それにもとづいて確定申告したことが認められる。

そして被告人は、捜査段階においては四八年度中に開拓社との間で前記一三億円余を売買代金として本件土地に関する売買契約が成立していたことを認めていた。たとえば、被告人の検察官に対する昭和五一年七月一六日付供述調書によれば、「昭和四八年一〇月に開拓社と京浜商事との間で土地の売買代金額が正式に決まったのであります。それが前に話したように一、三四三、二七二、六八〇円であったのです。開拓社から京浜商事に土地代として入った金は、京浜商事としては仮受金として一旦会計処理し、確か一二月末でそれを売上計上している筈です。売買代金が特定し、契約も成立したのですが、書類そのものは二月に入って作成しました。」と供述し、同じく検察官に対する同月一三日付供述調書でも同様の供述をしている。そして、開拓社の社長であった中村勝一が、ほぼ同様の事実を認め、そのころ開拓社が買収業務から手を引く話し合いを行なったと述べているほか、同社の役員であった貝塚正二、堤幸雄も同旨の供述をしていること、それを裏付ける確認書等が存在することなどから判断して、被告人の右供述は十分信用できるということができる。結局、昭和四八年一〇月ころには被告会社と開拓社との間で本件土地に関する売買契約が成立していたというべきである。

さらに、地主への土地代金の支払いが岡崎工業介入後の分も含めて四八年度末までに大部分終了していること、支払未了の地主三橋勲に関する分についてもその契約金額のほとんど大部分が四八年度末までに支払われていること、被告会社への入金も四八年度末までにそのほとんどが完了していること、地主のみならず取引仲介業者である明友産業株式会社においても四八年度中に土地取引が完了したとして税務処理を行っていること等に徴すれば、本件土地に関しては四八年度中に収益が確定したとみるのが相当である。

弁護人はこの点に関して、法人税法取扱基本通達二―一―一の趣旨からして、たな卸資産の販売による収益の額は、その引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであると主張しているが、本件土地に関する地主と岡崎工業との和解の成立時期等からみて、四八年度中にはほぼ引渡しを終えていたともみられるうえ、本件の場合は販売資産が不動産なので、その属性からいって固定資産の譲渡による収益の帰属の時期に関する取扱い(同通達二―一―三)に準じた取扱い、すなわち法人が当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日以降引渡しの日までの間における一定の日にその譲渡による収益が生じたものとして当該日の属する事事年度の益金の額に算入することもできる取扱いによることも可能であると解することができるのであって、前記のような事情のもとに収益が確定したとすることになんら支障はないというべきであり、いずれにしても、右の主張は採りえない。

弁護人の錯誤の主張は、結局その前提を欠き、理由のないものといわざるをえない。

つづいて弁護人は、新関建設株式会社名義で計上した九、一七〇万円に関して、この金額に見合う金九、一七二万円を売上げとして計上したことに関してとくに疑義のある旨を主張している。

しかし、この経緯に明確さを欠く点はあるものの、被告会社は右金額を含めた売買代金で、契約を締結したことが明らかであるうえ、公正証書まで作成していることからみても、貝塚らがこの金を返済する意思を有していなかったとはいいえず、右九、一七二万円が売上げとして計上すべきものでなかったと断ずることはとうてうできない。

最後に弁護人は、開拓社の役員四名との間にリベート合計六、〇〇〇万円を支払う約束が存在した旨を主張する。

しかしながら、確かに明確とはいいがたいにしても弁護人主張の如きリベートの話が被告会社と開拓社の貝塚正二ら四人の間に出ていたことは認められるけれども、被告人は捜査官に対して、リベートの話が決まったのは昭和四九年二月ころになってからだと述べ、当公判廷でもその趣旨を明言しているのである。一方貝塚はその証言のなかで、六、〇〇〇万円の話が決まったのは昭和四八年秋であるかの如き供述をしているのであるが、証言全体の趣旨からすれば、その話の決まった時期が昭和四九年になってからだということはあながち否定しているものとみることはできず、それが右の被告人の供述と矛盾しているとまではいえない。同様に中村守和の証言もリベートの内容、時期いずれについても明確性を欠く。以上の事情からすれば、四八年度中の債務として、右のリベート金六、〇〇〇万円が確定していたとみるのは結局困難であって、右の主張も採用できない。

(法令の適用)

1  罰条 (被告人会社につき)法人税法一五九条、一六四条一項。

(被告人岡野谷につき)同法一五九条(懲役刑のみ選択)。

2  執行猶予 刑法二五条一項。

3  訴訟費用 刑訴法一八一条一項本文、一八二条。

(裁判官 門野将)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和48年1月1日

至 昭和48年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

脱税額計算書

自 昭和48年1月1日

至 昭和48年12月31日

〈省略〉

税額の計算

〈省略〉

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